易は準科学と言われ、ノーベル物理学賞を受賞したニールス・ボーア博士が晩年「易経」を研究したことは有名です。易は森羅万象を最少の文字数で表せるツールで、「時間や空間に組み込まれている情報」を引き出すのに大いに役立ちます。ここでは、初心者向けの易を学ぶ最も簡単なやり方を解説します。
専門用語の解説
易を学ぶうえで必須の専門用語を解説します。
爻
爻とは、易の卦を構成する基本記号をいいます。爻は、陰陽二種類があります。
陽は、実線「ー」で表し、陽爻といいます。
陰は、点線「– –」で表し、陰爻といいます。
八卦
八卦とは、爻を三つ組合せでできたものをいい、次の八種類あります。
天(☰)、沢(☱)、火(☲)、雷(☳)、風(☴)、水(☵)、山(☶)、地(☷)
八卦の覚え方
まず、陰陽二元論から天をすべて陽爻の☰、地をすべて陰爻の☷と定めます。
雷は、雷が地に落ちる形(☳)で、地(☷)の一番下の爻が陽爻に変化しています。
風は、天の低い所で吹く形(☴)で、天(☰)の一番下の爻が陰爻に変化しています。
山は、地が上に盛り上がる形(☶)で、地(☷)の一番上の爻が陽爻に変化しています。
沢は、窪んだ谷の形(☱)です。
火は、外側が明るく内側が暗い形(☲)です。
水は、上下どこからでも入り込むことができる形(☵)です。
八卦の象意(意味や象徴)は次の通りです。
八卦の象意の覚え方
天(☰)は、線の数が三本で八卦の中で一番少ない。人数が少ないのは王様、社長などのトップ。王様は尊く、剛健で国民に施して統べる。
地(☷)は線が6本で一番多い。人数は多いのは民草や社員。
民草は卑しく王様に順う、王様と違って施すことはない(吝)
雷(☳)は初爻に始めて陽爻が生まれた形、人であれば長男、卦主の陽爻がこれから上に進んでいく象。雷は騒々しい、音の意があり。
水(☵)は中央の二爻に唯一の陽爻がある形、人であれば二番目の中男(次男)、卦主の陽爻が穴に陥っている形、また上に行くか下に行くか迷い悩んでいる形。
山(☶)は一番上の三爻に唯一の陽爻がある形、人であれば三番目の少男、卦主の陽爻が上まで登り切り止まっている形、窮まれば転じるが易の理なので、変化の意もあり。
風(☴)は唯一の陰爻が初爻にある形、人であれば長女、初爻の陰爻が入口に見える形、初爻の陰爻の女が上の陽爻の男に随っていく形で、恋愛の意もあり。
火(☲)は唯一の陰爻が中央の二爻にある形、人であれば中女、中央の陰爻が上下の陽爻につく(離合)形、火の連想から明、麗の意。
沢(☱)は唯一の陰爻が上の三爻にある形、人であれば少女、三爻の陰爻が出口に見える形、横から見ると上の陰爻が口に見える、また上の陰爻の女が下の男から言い寄られている形で喜悦の意
盤珪
八卦は「卦名」で呼ぶことが多いです。
天は「乾」、沢は「兌」、火「離」、雷は「震」、風は「巽」、水は「坎」、山は「艮」、地は「坤」です。
八卦の九宮(九星気学の九星と同じ)の象意も必須知識です。
九宮象意
九宮 | 九宮象意 |
---|
一白 | 悩み、問題、苦労、病気、腎臓、陰部 |
二黒 | 労働、順う、職業、土地、妻、母、胃腸、皮膚、右手・右肩 |
三碧 | 進む、発展、驚く、怒る、音、歌手、スポーツ、肝臓 |
四緑 | 入る、整う、恋愛、商売、長女、医者、左手・左肩、股 |
五黄 | 腐敗、破壊 |
六白 | 統べる、政治、金銭、父、夫、頭、右足 |
七赤 | 悦ぶ、出る、欠ける、金銭、食、少女、口、肺 |
八白 | 止る、変化、建物、工業、青年、左足、腰 |
九紫 | 離合、顕れる、文書、作家、画家、目、心臓 |
六十四卦
六十四卦とは、二つの八卦を上下に重ねてできる六十四の卦をいいます。
上の八卦は上卦または外卦、下の八卦は下卦または内卦といいます。
六十四卦の六つの爻は、下からら順に初爻、二爻、三爻、四爻、五爻、上爻といいます。
本卦
本卦とは、占うにあたって、易を立てて出てきた六十四卦をいいます。
之卦
本卦を出したあとに、陰陽逆に変化させる爻(変爻という)を求め、変爻後にできる六十四卦を之卦といいます。
易卦の出し方
立卦方法の種類
卦を出すことを立卦といい、本卦、変爻、之卦を出します。
立卦には、有筮立卦と無筮立卦という2つの方法があります。
有筮立卦は、筮竹やサイコロなどの用具を使って易を立てる方法です。
同じことを再度占うと結果が異なるという欠点があります。
日本人は有筮立卦を好む人が多いようです。
無筮立卦は、筮竹などの用具を使わずに易を立てる方法です。
同じ方法で卦を立てれば同じ結果になりますが、易を立てる方法が多くあり、どの方法で易を立てるかによって結果が異なるという欠点があります。
中国人は無筮立卦で、有筮立卦を行う人はほとんどないそうです。
有噬立卦の最も簡単な方法は、易用サイコロ(右画像)を使う方法です。
一度、サイコロを振れば、上卦、下卦、変爻がすべて出ます。
筮竹、算木など易専用を道具を使う方法が正式ですが、手間がかかるので素人に向きません。
盤珪
有噬立卦は偶然性に依拠するので、データ収集に不向きと言えます。
私は無噬立卦を勧めます。
無噬立卦
無筮立卦は、梅花心易という方法が中心になります。
数や方位を八卦に変換して卦を立てます。
立卦の基礎となる「八卦等への変換方法」
十二支は、次の通り、数に変換します。
十二支の「数」変換方法
十二支 | 子 | 丑 | 寅 | 卯 | 辰 | 巳 | 午 | 未 | 申 | 酉 | 戌 | 亥 |
---|
変換数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
数を次の通り八卦に変換します。
数の「八卦」変換方法
数を8で割り、その余りの数で次の通り八卦に変換します。
余りの数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|
変換八卦 | 天 | 沢 | 火 | 雷 | 風 | 水 | 山 | 地 |
数を次の通り変爻に変換します。
変爻の出し方
数を6で割って、その余りの数が変爻する爻を決めます。
余りの数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
---|
変 爻 | 初爻 | 2爻 | 3爻 | 4爻 | 5爻 | 上爻 |
方位を次の通り八卦に変換します。
方位の「八卦」変換方法
八方位を次の通り八卦に変換します。例えば、北西は天に変換し、数は1とします。
方 位 | 北 西 | 西 | 南 | 東 | 南 東 | 北 | 北 東 | 南 西 |
---|
変換八卦 | 天 | 沢 | 火 | 雷 | 風 | 水 | 山 | 地 |
順番 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
無噬立卦方法
無噬立卦方法は、数多くありますので、代表的な方法を、立卦法および具体例(次の占事を立卦する)でもって解説します。
占 事
2021年(丑年)12月26日(旧暦11月23日)の午前10時30分(巳刻)に若い女性が三人、東の方面からやって来たという事象を見て、易を立てる。
①年月日時(新暦)による立卦法
立卦法
上卦:年支数+新暦月+新暦日=合計数(A)、Aを8で割った余りの数で八卦に変換
下卦:A+時支数=合計数(B)、Bを8で割った余りの数で八卦に変換
変爻:Bを6で割った余りの数で変爻を決める
上卦:年支数2+新暦月12+新暦日26=40、40÷8=0余り0、余り0の場合は8で、八卦は「地」
下卦:40+時支6=46、46÷8=5余り6で八卦は「水」
変爻:46÷6=7余り4で「4爻変」
本卦:地水師(師は六十四卦名)の4爻変
②年月日時(旧暦)による立卦法
立卦法
上卦:年支数+旧暦月+旧暦日=合計数(A)、Aを8で割った余りの数で八卦に変換
下卦:A+時支数=合計数(B)、Bを8で割った余りの数で八卦に変換
変爻:Bを6で割った余りの数で変爻を決める
上卦:年支数2+旧暦月11+旧暦日23=36、36÷8=4余り4で、八卦は「雷」
下卦:36+時支6=42、42÷8=5余り2で八卦は「沢」
変爻:42÷6=7余り0、余り0は6で「上爻変」
本卦:雷沢帰妹(帰妹は六十四卦名)の上爻変
③時針分針による立卦法
立卦別法
上卦:時針の位置で下表の通り八卦に変換する。
下卦:分針の位置で下表の通り八卦に変換する。
針位置 | 11-1 | 1-2 | 2-4 | 4-5 | 5-7 | 7-8 | 8-10 | 10-11 |
---|
八卦 | 火 | 坤 | 沢 | 天 | 水 | 山 | 雷 | 風 |
変爻:分針の位置で下表の通り変爻を決める
針位置 | 1-3 | 3-5 | 5-7 | 7-9 | 9-11 | 11-1 |
---|
変爻 | 初爻 | 2爻 | 3爻 | 4爻 | 5爻 | 6爻 |
上卦:時針の位置は10時で八卦は「風」
下卦:分針の位置は6(30分)で八卦は「水」
変爻:分針の位置は6で変爻は「3爻」
本卦:風水渙(坎は六十四卦名)の3爻変
④象意と方位による立卦法
立卦法
上卦:占事の中心対象の象意で八卦に変換
下卦:方位を八卦に変換する
変爻:「上卦の八卦の順番」と「下卦の八卦の順番」の合計数を6で割った余りの数で変爻を決める
上卦:若い女性の象意を八卦は「沢」
下卦:東の八卦は「雷」
変爻:沢の順番2+雷の順番4=6、6÷6=0,余り0は6で「上爻」
本卦:沢雷随(随は六十四卦名)の上爻変
⑤数と方位による立卦法
立卦法
上卦:数えられる数を8で割った余りの数で八卦に変換
下卦:方位を八卦に変換する
変爻:「上卦の八卦の数」と「下卦の八卦の数」の合計数を6で割った余りの数で変爻を決める
上卦:若い女性3名、3÷8=0、余り3で八卦は「火」
下卦:東の八卦は「雷」
変爻:火の順番3+雷の順番4=7、7÷6=1,余り1で「初爻」
本卦:火雷噬嗑(噬嗑は六十四卦名)の初爻変
⑥数と時間による立卦法
立卦法
上卦:「数えられる数」を8で割った余りの数で八卦に変換
下卦:「数えられるの数」と「時支数」の合計数(S)を8で割った余りの数で八卦に変換
変爻:Sを6で割った余りの数で変爻を決める
上卦:若い女性3名、3÷8=0、余り3で八卦は「火」
下卦:3+6(10時は巳刻で6)=9、9÷8=1、余り1で八卦は「天」
変爻:9÷6=1,余り3で「3爻」
本卦:火天大有(大有は六十四卦名)の3爻変
盤珪
時間を使う立卦方法が基本になりますが、実際に立卦をしてデータをとり、どの方法が最も的中するか研究してください。
また解説した方法を応用すれば、別の方法でも立卦できるのでそれも研究してください。
易卦の解釈
易の基礎知識を覚え、立卦するところまでは誰でも容易にたどり着くことはできますが、易卦の解釈になると、ここで挫折する人は多いと思います。
易卦の解釈は、周易か断易(五行易)を一般的に用いますが、前者は「易経」の解釈が難しく、後者は複雑なので、満足できる水準まで到達するのは難しいからです。
ここでは、数多くの実例データに基づく解釈法で、誰でも簡単にできる方法を紹介します。
その方法は、象意から連想する方法、卦の形から連想する方法の二つです。
以下、具体例をあげながら解説します。
象意から連想する方法
ガス爆発のガスの八卦はどれか?
ガスは空気の一種ですので、第一感で風(☴)や天(☰)を連想します。流れているガスであれば風(☴)、部屋に充満しているガスであれば、満ちているとか充実してるという象意のある天(☰)で見る方がよいでしょう。
またガスは目に見えないので、暗い(=見えない)の象意がある水(☵)で見る場合もあります。
※火(☲)は明るいという象意ですが、3爻の陰陽をすべて反対にした水(☵)は暗いという象意になります。
火事の象意がある六十四卦はどれか?
風火家人、上卦風(☴)、下卦火(☲)です。易は「下から上に進む」という鉄則があります。風(☴)の代表的象意は「入る」で、一番下の陰爻から何か入って来るです。その何かは下卦の火であり、火事の象意があると見ます。自分が火元というよりは隣家が火元の場合が多いです。
火水未済、上卦火(☲)、下卦水(☵)です。上卦の火は上に上り、下卦の水は下に下り、水が火に届きません。これは消火活動が難航するような火事の象意があると見ます。
卦の形から連想する方法
自転車の八卦はどれか?
自転車を横から見ると、下に2輪があるのが特徴的です。八卦の形から風(☴)や山(☶)が候補になります。一番下の陰爻が2輪に見えるからです。
風は四緑で股の象があります。自転車に乗るとき、人は股を動かすので、自転車は基本的に風(☴)とみます。
信号待ちの自転車に後ろから自動車が衝突した場合の被害自転車は風(☴)と見るでしょうか。ここでは信号待ちで「止まっている」自転車なので、止まるの象意がある山(☶)とみる方が的中する場合が多いです。
天風姤という六十四卦があります。初爻が陰爻で他の爻はすべて陽爻の卦です。
陽爻を男性とみると、陰爻は女性になります。
易は下から上に進むと見るので、初爻の女性が多くの男性と付き合っていく象意を表しています。
なお、易経に『女壮んなり、もって女を娶るなかれ』と解説されています。
アドバイス
象意や卦の形から連想すれば、それだけで六十四卦の解釈はでき、しかも的中します。
連想の上達方法として、
頭に浮かんだ単語、例えば「怒る」「盗む」はどの卦で表されるのかを連想する
易卦と実際の事象を比べ、なぜそうなったのか連想を働かせて解釈する
訓練がお勧めです。
盤珪
私は易経は参考程度に見ることがありますが、断易はやりません。連想方法で十分と断言します。易書を読む場合は、連想を働かせるヒントを探すことを主眼にするとよいです。
六十四卦の一覧表を掲載します。
※卦名(天=乾、沢=兌、火=離、雷=震、風=巽、水=坎、山=艮、地=坤)となっています。
(参考)六十四卦解説サイト「易経ネット」
最後に連想方法で六十四卦の一部を解釈します。このように連想して六十四卦を解釈してください。
六十四卦解釈の具体例
水雷屯
水の象意は「陥、悩む」です。
雷の象意は「進む」です。
易は下卦から上卦に進むと見ますが、水雷屯は進む先が悩むです。ですので解釈は、「進めば凶」、「進めば困難に陥る」といった解釈になります。
雷水解
雷水解は上卦下卦が水雷屯と入れ替わっています。
悩む象意の水が下卦で、進む象意の雷が上卦です。これは悩みを通り過ぎた状態なので、「悩みや困難を乗り越える」、「問題を解決する」といった解釈になります。
盤珪
本記事の参考文献です。
1.易経関連~「易」(本田濟著、朝日選書)
2.梅花心易~「訳注 梅花心易」(薮田曜山著、三密堂書店)
3.易全般 ~「易学小筌」(松田定象著、神宮館)
盤珪
最後までお読みいただきありがとうございました。
盤珪(ばんけい) プロフィール