不動心は凶を引き寄せません。これは人生の極意です。常に不動心を保ちつづけたいものですが、実際には不安、怒り、欲望、嫉妬、苦難などで不動心を保てなくなってしまうことが常です。このような場合、できるだけ早く不動心を取り戻すことが重要です。そのようなときに読む名言を占術の観点から解説します。
不動心は凶を引き寄せない!
まず、不動心とは何か、なぜ不動心が凶を引き寄せないかについて解説します。
不動心とは
不動心とは何かについては、「不動智神妙録」(沢庵和尚)の一節が一番分かりやすいと思うので紹介します。以下抜粋です。
諸仏不動智と申す事、不動とは、うごかずという文字にて候。智は智慧の智にて候。不動と申し候ても、石や木のように、無性なる義理にてはなく候。向うへも、左へも、右へも、十方八方へ、心は動きたきように動きながら、卒度も止まらぬ心を不動智と申し候。
不動心は、右図の菊紋を浮かべると理解しやすいと思います。
心が花芯にあるのが不動心で、何かに囚われずに自由に動け、すべてことに即反応できる状態にあります。
一方、心が花びらにあるのが動心で、怒りや不安など何かに囚われて心が自由に動けなくなっている状態にあります。
なぜ不動心が凶を引き寄せないのか
占術の原理
避凶の根拠となる占術の原理を2つ解説します。
不動心が凶を引き寄せない根拠
凶の心は、原理❶「凶は凶を引き寄せる」の通り、凶を引き寄せます。
不動心は、無心で凶の心ではありません。ですので凶を引き寄せることはないです。
原理➋「動かなければ吉凶生ぜず」の応用で、「心が動くと吉凶が生じる」ということになります。
心が動くときとは、通常、焦り、欲、不安、怒りなど凶の心になっているときです。
不動心が引き寄せないことに関連する名言を紹介します。
『一心生ぜざれば、万法咎無し』(臨済録)
不動心を取り戻すための名言
心が何かに動かされたときに読む名言
江戸時代前期の臨済宗の名僧、盤珪禅師の名言を紹介します。以下、『盤珪禅師語録』の一部抜粋です。
俗士問、「起こる念を払えば、また後より起こり、次々、止むことなし。この念、どのようにおさめるのですか?」
盤珪禅師日、「起こる念を払えば、また後より起こり、止むことなし。血を洗うが如し。はじめの血は落ちても、洗う血にて穢れる。いつまで洗っても穢れは退かず。この心は、もとより不生不滅にして迷いはないものである、人はこのことを知らず、『念をあるもの』と思い、生死流転するものなり。念は仮想(実体なし)と知って、取らず嫌わず、起こるまま止むままにすべし。」
私たちは、不安になると、「悲観的になってはいけない」とか「忘れよう」などと考えがちですが、これはまさに「血で血を洗う」ようなもので、不安は一切おさまらないということです。
不安などの念はもともと実体がないものと知って、生じるまま止むままにすれば、そのうちに念は自然におさまるということだと思います。
お金、名誉など欲望に心を動かされたときに読む名言
- 『己れを愛するは善からぬことの第一なり』(西郷南洲遺訓)
- 『死生 命にあり、富貴 天にあり』(論語 巻第六)
- 『汝を惜(いつく)しみては、即ち富貴ならしめ、汝を奪っては即ち貧窮ならしむ。万事 天公に由る』(寒山)
- 『求むれば、則ちこれを得、捨つれば則ちこれを失うは、是れ求むること得るに益あるなり、我に在るものを求むればなり。これを求むるに道あるも、これを得るに命あるは、是れ求むること得るに益なきなり。外に在るものを求むればなり。』(孟子 尽心章句上)
お金や名誉など自分の内にないものを求めるのは益がない、すべて運命次第ということで、あれこれ悩んでもしかたがないということだと思います。
重責で心が挫けそうになったときに読む名言
- 『天のまさに大任をこの人に降さんとするや、必ずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしめ、その体膚を窮せしめ、その行動を空亡せしめ、その為さんとする所を沸乱せしむ。心を動かし性を忍ばせ、その能くせざる所を増益せしむる所以なり。』(孟子 告子章句下)
- 『貧居に傑士を生じ、勲業多難に顕る。雪に耐えて梅花麗しく、霜を経て楓葉丹し。もし能く天意を識らば、豈に敢えて自ら安きを謀らん』(西郷南洲遺訓)
重責や大任は、天が自分を飛躍させるために与えてくれた試練です。これが天意だと知って乗り越えましょうということだと思います。
災難に遭ったときに読む名言
『災難に遭う時節には災難に遭うがよく候、死ぬ時節には死ぬがよく候、是はこれ災難をのがるる妙法にて候』(良寛)
これは良寛が地震被災者の友人に送った「お見舞いの手紙」の一節です。災難に遭ったときは、まずそれをそのまま受け入れて落ち着くこと、不動心を取り戻すことが大事だということだと思います。不安や恐怖は更なる凶を引き寄せますから。
絶望を感じたときに読む名言
- 『夜明け前が一番暗い』(慣用句)
- 『極まれば変ず、変ずれば通じ、通ずれば久し』(易経 周易繋辞下傳)
『極まれば変ず、変ずれば通じ、通ずれば久し』について「易」を使って占術的な解説します。
易に艮という八卦があります。
下から点線(陰爻という)、点線、実線(陽爻という)の3本の線で構成されています。
易は「下から上に進む」と見るという鉄則があります。
実線の視点でみると、実線は一歩一歩上に上がって一番上の頂上にいる状態にあります。
これ以上先に進めないので、艮は『変化』という意味を持ちます。つまり窮まれば転じるです。
また「水火既済」、「火水未済」という六十四卦があります。
水火既済は、すべての爻が「正」です。
この卦は、「現在が最も完成した状態でこれから徐々に崩れていく」という意味になります。
一方、火水未済は、すべての爻が「不正」です。
この卦は、「現在 最も整っていない状態にあるが、これから徐々に整っていく」という意味になります。
まさに窮まれば転じるで、絶望はこれから反転する兆しということだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
盤珪(ばんけい) プロフィール